緑を通し、街を知る。“プランツ・ウォーク”のススメ

  • 2023年06月27日更新

こんにちは。まちかどのゲリラ的園芸活動をひそかに愛で見守る「路上園芸学会」会長の村田です。

ライター

路上園芸学会 会長 村田
街角で営まれる路上園芸に魅了され「路上園芸学会」名義でSNS等で細々と魅力を発信。植物への興味が尽きず園芸装飾技能士の資格も取得。人の手を離れオバケ化してしまった植物を見るとつい興奮。『街角図鑑』(三土たつお編著・実業之日本社)に路上園芸のコラムを寄稿。図画工作作家の木村りべか、写真家の中島由佳が結成した庭先系アートユニット「庭先PT」に新メンバーとして加入。
村田

“プランツ・ウォーク”という言葉を知っていますか。その名の通り“プランツ=植物”を見ながら“ウォーク=散歩”することからきたこの言葉。何てことない街歩きが何倍も楽しくなる、魔法のキーワードです。

プランツ・ウォーク珍道中

6月某日。「プランツ・ウォークしよう!」とメールでやり取りしあい集まった、5人のプランツ・ウォーカーたち。

この日むかった先は、墨田区向島。路地の街としても知られる向島は、街中のいたるところに住人の手がけた路上園芸が溢れている、プランツ・ウォークにもってこいの地でもあります。

スタート地点は東向島駅。まずは大まかなルートだけ決め、あとは各人の“プランツ・センサー”の赴くままに探索していきます。

東向島駅

▲江戸時代は農業が盛んだったこの地。東向島駅で、当時の名産品・寺島なすのキャラクターが出迎えてくれました。

道ばたに何気なく置かれた植木鉢。蔦が絡まる古びたパイロン。朽ちた植木鉢から飛び出す根っこ。植木鉢に添えられるオーナメント。

パイロン

▲破れたパイロンの上と下から、蔦が出会いくんずほぐれつ状態!

何気なく通り過ぎてしまいそうな光景も、プランツ・ウォーカーたちにとっては格好の餌食。その佇まいに至るエピソードや育て主のキャラクターを勝手に妄想しては、全力でツッコミを入れたりします。

育て主の方との交流の一幕

▲育て主の方との交流の一幕。

時には手入れに勤しむ育て主の方との交流も。育てている植物にまつわる豆知識やエピソードを伺える貴重なひと時です。

空き缶

▲支柱に逆さにかぶせられている空き缶は、植物を覗き込んだ子どもの目に刺さらないようにするための、育て主の優しいはからいだそうです。

プランツ・ウォークを楽しむコツは、ルートや内容をあまり決めすぎず、偶然の出来事を楽しむこと。自らの第六感の赴くままに「あ、こっちの道は良さそうだぞ」と進んでいくと、素敵な発見が待っています。

猫

▲向島では猫にもたくさん出会えました。

ガチャガチャ

▲プランツ・ウォーク中に発見したガチャガチャコーナーで散財する大人たち。

そして歩き疲れたらビールで乾杯。いいプランツのあるところには、たいていいい飲み処があります。

おでん

▲鳩の街通り商店街でビール片手におでんを食す。

この日のプランツ・ウォークの様子はこちらの動画をご覧ください(撮影・編集:野田亮介)。

街を再発見するツールとしてのプランツ・ウォーク

“プランツ・ウォーク”という言葉は、2010年に生まれました。いとうせいこうさん、柳生真吾さんが東京の街中の植物を見て歩くことから始まったこのプロジェクトは、各分野の専門家を巻き込みながら、雑誌連載・ウェブ番組・書籍・トークライブなど、全国各地を舞台に幅広いコンテンツへと展開していきました。

『プランツ・ウォーク 東京道草ガイド』

『プランツ・ウォーク 東京道草ガイド』(いとうせいこう著・柳生真吾著・講談社)

フィールドワークの様子の一部は、現在YouTubeの動画としても公開されています。

街中でたくましく息づく植物や美しい風景、クスッと笑っちゃうような面白い出来事に出会った瞬間、「わ!?」と楽しそうに歓声をあげるいとうせいこうさん、柳生真吾さんの姿がとても魅力的。

それと同時に、2人の眼差しが交差し、言葉が紡がれることで、訪れる先々で出会う街の緑を通して、その植物が根差す街の歴史や風土、そこで培われてきた人の営みまでもが浮かび上がってきます。

プランツ・ウォークから見えてくるもの

“プランツ・ウォーク”の企画者であるにしざわあきらさんは、プランツ・ウォークの魅力をこう語ります。

プロフィール

にしざわあきら
路地裏園芸観察学会主宰。最近、かわいいカイコを妻がもらってきました。2年にわたりGoogle mapにプロットしてきた「TOKYO桑マップ」が役立っています。
にしざわあきら

「街を歩くと、自分がおやっと感じた、植物や人々のいたした『コト』に出くわしますよね。それをめぐってあれこれ思うと、その土地や街の素顔や過去が見えてきます。ご近所の関係はどうだとか、商売はなんだとか。まあ勝手な想像なんですが。その発見と探検と笑いの連続。

そして人間は植物にあやつられているという実感。それが魅力かな。そんな素敵なことが『いつでもどこでもできる』というのがまたすごいじゃないですか。しかもタダで。」

2015年5月、“プランツ・ウォーク”を牽引するキーパーソンであった柳生真吾さんが、咽頭がんのため、若くしてこの世を去りました。しかしながら“プランツ・ウォーク”によって蒔かれた種は、今も多くの場所で芽吹き、全国各地のプランツ・ウォーカーたちによって花を咲かせています。

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