子育て中に飲み会に参加しづらい3つの理由。「今日、お子さんは?」と聞かれたら...

  • 2022年11月12日公開

もうすぐ忘年会シーズン。同僚や友達と飲みに行くのは久しぶりだという人もいるかもしれません。子育てをしている人の場合は、参加するほうも誘うほうも、互いに気を使いがちです。飲み会を企画するとき、どんなコミュニケーションがあるとよいのでしょうか。育休後コンサルタントの山口理栄さんと考えます。

提供写真

2022年6月、育児休業から復帰した女性たち約20人に、飲み会に関するヒアリングを実施しました。そもそも飲み会が好きな人とそうではない人がいますが、「飲み会に参加したい」と思っている人の中で「夫が反対するから行けない」という人はほとんどいませんでした。母親や義理の母親を気にする声は少しみられましたが、「行くか行かないかは自分で決める」という人が多数派でした。

意外にも、子育て真っ最中であっても「参加したい飲み会には参加している」という声が多かったのです。想像していたよりも、女性たちは積極的に飲み会に参加するようになっているようです。

1995年から仕事と育児の両立に関する相談を受けてきて、「確実に時代が変わった」と感じます。飲み会に参加するかしないかを、女性たちが主体的に選べるようになってきた様子がうかがえるからです。

参加しづらい3つの理由

多くの女性は出産すると、自由になる時間が出産前から大きく減ってしまいます。2021年の総務省「社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもがいる家庭では、1日のうち妻の家事・育児時間は7.28時間であるのに対し、夫は1.54時間です。

共働き家庭では家事や育児の分担が進んできてはいるものの、母親が自由時間を確保すること、特に夜間に数時間ひとりで出かけることは、全体的にはまだまだ難易度が高いといえます。その象徴が飲み会といえるでしょう。

飲み会に参加しづらいと感じる女性の背景には、以下の3つの理由があると考えられます。

一つ目は、パートナーの協力が得られないから。二つ目は、周りに「子育て中だから」と配慮されて誘われないから。三つ目は、母親自身が遠慮してしまうからです。

コロナで役割分担に変化

一つ目は、パートナーが同居している場合は、冒頭で紹介したヒアリング結果にも表れているように改善の兆しがみられます。

コロナで在宅勤務が続いていた人は、夫婦間の役割分担を見直すきっかけになったかもしれません。

聞くと7〜8割の家庭で保育園の迎えは妻が担当していますが、在宅勤務で夫が家にいることも多くなり、「妻だけがやって当たり前」ではなくなりつつあります。夫婦で予定を確認しあい、お互いのために調整することは珍しくなくなってきています。男性の育休取得率が少しずつ上がってきたこともあり、男性の育児時間も着実に増えてきているといえます。

夫婦のどちらかが平日夜に飲み会に行けば、残されたほうはワンオペ育児となります。父親が「手伝う」だけのスタンスではなく、一通りの家事と育児をこなせるようになると、パートナーを送り出しやすくなります。

まずは聞いてほしい

二つ目の、子育て中の女性を飲みに誘いづらいという状況は、配慮のようにみえて、「女性だから子育てを優先するだろう」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)であるともいえます。

たしかにランチのほうが参加しやすく、授乳中であれば飲酒を控えなければならない事情もありますが、最初から「飲み会は無理だろう」と決めつけるのでなく、「まず聞いてみてほしい」と思っている女性は実は多いのです。

また、せっかく飲み会を楽しんでいるときに、「子どもはどうしているの?」と聞かれ、責められているように感じてがっかりしたという声も複数ありました。これも「母親が子どもの面倒をみるのが当たり前」というアンコンシャス・バイアスによるものなので、たとえ悪気がなかったとしても、女性たちに固定的な役割を押し付けることになってしまいます。

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三つ目の、母親自身が遠慮してしまう場合は、周囲とのコミュニケーションが不足していることが多いです。

「時短勤務でいつも早く帰っているくせに、飲み会だけはくるんだね、と思われそう」

「子どもが急に発熱して、ドタキャンしたら迷惑をかけてしまうから」

などと周りのことを気にするあまり、ネガティブに考えてしまう人がいます。

周囲に遠慮ばかりしていると、「行きたかったのに誰も声をかけてくれなかった」「仲間はずれにされた」「日ごろから迷惑をかけているからだ」などと悪循環になってしまいます。孤立しないようにするには、「飲み会があれば参加したいから声をかけて」と自ら意思表示をすることも重要です。

ヒアリングに答えてくれたある女性は、飲み会で「お子さんどうしてるの?」と聞かれたとき、「今日は夫がみているんですよ」と答えたら、相手が「たまにはこういう時間も大切だよね」と言ってくれてうれしかった、と話してくれました。

いずれにしても、この飲み会を楽しみにして、さまざまな調整をしてでも参加したんだということが伝わると、企画した人や他の参加者たちもうれしくなるものです。ふだんはプライベートのことを積極的に話しづらい職場でも、こうした会話がきっかけで、どんな状況で子育てをしているのかを周りが想像することができ、理解が進みます。

完璧を求めない

実際、子育て真っ最中に飲み会の予定を立てて調整するのは一苦労です。日々のタスクを回すのに精いっぱいで、便利な外注サービスを検索して比較検討する余裕すらなく、仕方なく自分でこなしているという人は少なくないでしょう。

しかし、行きたい飲み会があれば、億劫でもその予定に向けて調整をしなければなりません。選択して行動し、責任をもって準備や段取りをする。こうやって、自分の生きたい道を歩むことができるようになっていくんだと思います。

また、パートナーに完璧を求めないことも大切です。

ある女性は「子どもを頼むね。家事は残しておいていいから」と言って出かけているそうです。夫への気遣いでもあり、自分が後ろめたさを感じないための気休めでもあります。

完全なる平等を求めるなら、「私はいつもスーパーに寄って買い物をし、食事を一から作って、子どもを寝かしつけた後に汚れた皿を洗って洗濯機も回しているのに!」という気持ちにもなるでしょう。ただ、自分が家事をするときにもすべてを完璧にこなす必要はないわけで、相手に完璧を求めないことは、自分自身が完璧な母親像から解放されることにもつながるのではないでしょうか。

飲み会でせっかくいい気分になったことですし、あえて細かいことは置いておいて、お互いこの先も気持ちよく頼める環境づくりを優先するのも、一つの考え方かなと思います。この延長線上に、それぞれの家庭にとってちょうどいい分担ができるようになるはずです。

純粋に楽しい飲み会に

そもそも、「飲み会」の役割や行く目的にも変化が生まれています。

飲み会で大事なことが決まったり、業務時間外の接待が当たり前だった時代がありました。しかし、社会全体の働き方改革が進んだいま、飲み会に参加しなければ置いてきぼりになるということは少なくなってきました。

コロナでいったん社会全体の飲み会文化がリセットされたことも「必要な飲み会」を見直すきっかけになりました。空気を読んで参加する必要がなくなったため、飲み会は純粋に楽しめる場となってきたのです。

女性たちからは、こんな声がありました。

「子どもが生まれてから、時間に対する考え方がシビアになりました。実りがなさそうなものや愚痴が多そうなものは避け、これはぜひ参加したいという飲み会にだけ参加しています」

「管理職として酒の力を借りず、コミュニケーションは勤務時間内にとります。飲み会は飲み会。純粋に楽しいのでできれば参加したい」

「お酒はまったく飲めないけど、雰囲気が好きだから参加したい」

仕事と育児を両立する毎日には、ほとんど余裕がありません。自宅と保育園と職場を必死で往復する日常を過ごし、たまたま飲み会がある日に「あ、今日は急がなくてもいいんだ」と気づいたときの不思議な瞬間を、私自身も経験したことがあります。あの解放感は、何ものにも代えがたい幸せな感覚です。

誰もが日常からふらっと離れ、気分転換をしてまた日常に戻ってこれるよう、飲み会の機会をぜひ有効に使ってもらいたいです。

すべての人に、自由なひとときを https://o-temoto.com/tag/flat/

OTEMOTO

仕事、家事、育児、介護...日ごろ誰かのために頑張っている人が、自分らしさを取り戻す時間をもてるように。
誰もが「ふらっ」と日常を離れる瞬間を応援する企画です。

著者:
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。

この記事を書いた人
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