500人に1人…声が出せない「場面緘黙症」の女性 4年間密着取材『チャント!特集』
- 2022年05月09日公開


家ではしゃべれるのに一歩外に出るとしゃべれなくなる不安障害を「場面緘黙症」と言います。小学生の500人に1人が悩んでいるとされています。私たちが取材を始めて4年、この不安障害と闘う女性の挑戦に密着しました。
いざ声を出そうとしても、声がでない

名古屋市に住むひろみさん(仮名)21歳は、毎週金曜日の深夜にアプリを使って配信をするのが最近の日課です。
「場面緘黙症っていう不安障害で、話すのが苦手なんですけど…」。画面の向こうにいるリスナーにこう打ち明けるひろみさん。小学生のころから、場面緘黙症と闘い続けています。人前で声が出せないので、この取材中も部屋のなかにスタッフはおらず、無人カメラを置いただけです。
私たちは4年前に、ひろみさんが高校3年生のときに取材を始めました。ひろみさんはいつも、声は出さずにスマホに打った文字で質問に答えてくれます。

「いざ声を出そうとすると、ぐっとなってなんで声が出なくなるのかわかりません」。
保育園の頃は保育士と話せず、小学生になったときも先生とだけ話せませんでした。そのことを同級生にからかわれたことがきっかけで、学校では一切声が出せなくなりました。場面緘黙症に悩むのは小学生の500人に1人いると言われています。

場面緘黙症の専門家、長野大学の高木潤野教授は、声が出せなくなる理由について「本人が不安を感じやすい性格ということがある。声を出したくても、のどがしまってしまう感じがする」と説明します。
場面緘黙症の日常

ひろみさんは、高校卒業後、名古屋市内のNPO法人でパソコンの入力作業のアルバイトをしています。学生時代のボランティア活動が縁で見つけた職場です。

声は出せないのでスタッフとはLINEでやりとりをします。周りの理解にも支えられ2年あまり続けています。でも一歩外にでれば困ることも…

コンビニに入ったひろみさん、なかなか買い物ができません。15分後、買い物を終えて出てきたひろみさんに訳を聞くと「優柔不断なのもありますし、あと店員さんがレジに立っていなくてどうしたらいいか困ってウロウロしたりします」とスマホに打った文字で答えてくれました。場面緘黙症のせいで苦しい毎日を送ってきました。
場面緘黙症を知ってもらうために勇気を振り絞って声をあげる

先月名古屋の東海中学と高校で行われた市民講座サタデープログラム。ひろみさんが講師を務める講座も開かれました。人前ではしゃべれないひろみさん。これまでの人生を録音した自分の声で紹介しました。

「音読も、発表も、合唱も、演劇もみんなの前ではできたことがありません。3年間担当だった保健体育の先生はとても厳しく、喋らないことでみんなの前で怒鳴られ、授業から外され、『迷惑だ』と言われたこともありました。」(録音したひろみさんの声)
見た目では分からない障害。両親でさえ気づいてくれず理解してもらえませんでした。
「母親は感情的になりやすく、小さなことで怒ったり イライラして舌打ちやため息をついてばかりでした。 父親も私に対して無関心でした」(録音したひろみさんの声)
高校生の頃には親の前でも話せなくなってしまいました。支えになったのは場面緘黙症のことを理解してくれた友人の存在です。克服に向けてチャレンジを続けるひろみさん。面と向かって話すことはできませんが、録音した声なら聞いてもらうことができました。
自分の声をもっと生かしたい

そして私たちが取材を始めて2年。記者にLINEで音声データが送られてきました。内容は「ひろみさんの歌声」。クリスマスプレゼントということでした。
その半年後、「いまならテレビカメラの前でも声が出せるかもしれない」と答えてくれたひろみさん。無人の部屋で朗読に挑戦することにしました。そして…

「ぼくふあんくん みんなのなかに いつもいるんだ きみのなかにもいるんだ わかるかな」
声を出すことができたひろみさん。このときの様子が放送された後、知り合いからだけでなくSNS上にも自分の声を褒めてくれるメッセージが投稿され自信を持つことができました。これをきっかけに「この声をもっと生かしたい」と思えるようになり、去年10月からスマホのアプリを使った配信を始めました。

顔を出さない声だけの配信なら知らない人とも話すことができました。
(ひろみさん)「10分に1回ハート押されてる?」
(リスナー)「そうじゃないかな?」
(ひろみさん)「やっば」
ここまでくれば私たちのインタビューにも声を出して答えてくれるかもしれません。記者が「しゃべるのは楽しいですか?」と問いかけると…

「めちゃくちゃ楽しいです」
返事はやっぱりスマホで、取材を始めて4年、人前で話すにはまだ時間が必要です。
それでも新たなことに挑戦です。ボイストレーニングの体験レッスンに向かいました。受講の理由を問うアンケートに「仕事に生かしたい」の欄にチェックを打ちました。自分の声を人に褒めてもらえたことで「将来声を使う仕事に就きたい」と思えるようにまでなったのです。部屋の外ではこの日会ったばかりの先生が聞いていますが…

「恥ずかしくない、恥ずかしくない、大丈夫」
自分に言い聞かせるひろみさん。大好きな歌手Adoの曲「踊」を歌いきることができました。ボイストレーニングの先生からは「もともとの声がすごくいい。 すごくきれいな声をしていた」と太鼓判です。
14年間人前で出せなかった声。ゆっくり、ゆっくりと克服し、もう一歩というところまでたどり着きました。


Locipo Press(ロキポプレス)は、名古屋に本社を置く民間放送局4社〈東海テレビ放送・中京テレビ放送・CBCテレビ・テレビ愛知〉の動画情報配信サービスLocipoを、手軽に文章で読むことができるメディアです。
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