お米をつくる不動産屋が目指す「おたがいさまの暮らし」って?|omusubi不動産 殿塚建吾さん

  • 2023年06月27日更新

「自給自足」と聞いて、どのような生活をイメージしますか?野菜を育て、肉を狩る……?私はまず「原人」が浮かびました。今、多くの人の生活は「自給自足」とは全く離れたところにあるのではないでしょうか。

「自給自足できる街をつくろう」というコンセプトを掲げ、実現している不動産会社が、千葉県松戸市にあります。その名もomusubi不動産。不動産業を営むかたわら、毎年お米を作っている……しかし兼業農家、ではなさそうです。入居者や街の人々を巻き込んで田植えや稲刈りイベントを開催しています。理想は「おたがいさまの関係」。

「自給自足できる街」とは?なぜお米を作るのか……。「おたがいさまの関係」って何だろう。omusubi不動産代表 殿塚さんに聞きました。

プロフィール

omusubi不動産 殿塚建吾さん
1984年生、千葉県松戸市出身。中古マンションのリノベ会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後、地元松戸に戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」に合流。MAD City不動産の立ち上げに携わる。2014年4月に独立し、omusubi不動産を設立。
殿塚建吾さん

祖父母の影響を受け、目指す「自給自足」の生活とは。

殿塚建吾さん

――omusubi不動産設立までのお話を聞かせてください。

父方の実家が不動産をやっていて、母方が農家でした。両方の幸せの基準は違っていて、父方は「高級レストランでごはんを食べる」「良いホテルに泊まる」というのが幸せだ、という考え方でした。

母方は、芋の煮っ転がしなんかを家族みんなで突っつくような食事が幸せだ、というライフスタイルでした。子どものころその両方を見ていて、私は母方の祖父母のような暮らしをしたいな、と思っていました。そのころから農家や農業に対する漠然とした憧れがありました。

だんだん成人を過ぎてくると、不動産の仕事から逃れられないぞ、ということに気づいてきたんです。でも不動産の仕事ってあまり良いイメージないじゃないですか(笑)。だから正直やりたくないと思っていたんですけど、それだったら不動産会社をやりながら母方の祖父母が大事にしていたようなライフスタイルを融合して新しい不動産会社をつくれないかな、と思い模索していたのがきっかけですね。

――では、「自給自足」に興味を持ったのも、母方のおじい様やおばあ様の影響ですか。

そうですね。農家の祖父は野菜をつくれることもそうなのですが、暮らし全体を自分でつくっていました。例えば自分で小屋を建て、かまどをつくって餅を炊いていたりして、「この小屋本当にじいちゃんが建てたの!?すげー」って感動したのを覚えています。

確かにお金は不動産会社をやっていた方があるかもしれないけれど、生きる力がハンパないな、と思っていました。

――なぜお米を作ろうと思ったんですか?

omusubi不動産は設立してから丸2年くらいですが、お米作りは5年続けています。私が単純に「自給自足」に興味を持って、でも全てを自分で自足するのは大変だから、まずはお米だけでも自給しようと思い始めたのがきっかけです。

――それから5年、不動産が始動してからも続けていらっしゃるんですよね。

omusubi不動産を始めるときに、田んぼは続けていくと決めていました。
田んぼを続けている理由は2つあります。
1つは、お米作りがコミュニティに繋がったということがあります。自分はプロの農家ではないので、イベントとしてたくさんの人に関わってもらいながら田んぼをやっています。結果的に田んぼを通じて人のコミュニケーションが生まれて、嬉しく感じました。

もう1つは「0から作る」ということをしたかったんです。不動産会社は今ある物を誰かに紹介するので、自分で何かを0から作るということはありません。何か1つくらい自分で作れるものがないと不安だと思ったときに、じゃあ食べ物を作ろう、とりあえず食べ物があれば死なないかな、と思いました。実際、オフィスには半年は生きていけるくらいお米があるので安心です(笑)。

のどかなさくら通りで、暮らしを一緒に作る仲間が増えた!

――なぜ松戸だったんですか?

私の通っていた高校が八柱にあり、のどかで好きだったからです。お店の前の通りは「さくら通り」と言う、日本の道100選に選ばれている通りです。この通り沿いでお店を出したいなと思っていて、自転車で空き家を探しにきたらここが空いていたので決めました。

満開のさくら通り

▲春には満開の桜が。これぞ”さくら通り”。

――omusubi不動産を立ち上げてから苦労したことや、反対に良かったことはありますか?

苦労したことは……いっぱいありますって言いたいですが、忘れちゃうんですよね(笑)。
良かったことは本当にいっぱいあります。特に、お客さん以上の関係になる人が多いということが一番良かったことですね。

この通りに私たちが店舗を出した時、古くからある美容室以外は基本シャッターが下りていました。すごく良い通りだし、もっとお店ができてこの通り自体が盛り上がればいいな、と思っていて。
そしたら隣に知り合いの建築士の方がオフィスを出してくれて、そこからアンティークショップや天ぷら屋さんができました。
そして最後に1つ空いているテナントの部分に、隣の建築士・大畠さんの声掛けからさくら通りの人たちでカフェを作ろうというプロジェクトが始まりました。

みんな私が仲介させていただいたのでカタチ上はお客様になると思いますが、「この通りを一緒に盛り上げていこう」という仲間のような関係になっています。

他にもオフィスで入居者さんと「omusuBEER」という飲み会を開催したりもしています。
それがきっかけで入居者さん同士が日常的に繋がっていったり、「地方に移住するんだけどどうしたらいいかな」という相談を受けたりする関係になれました。移住の話は、うちにとっては退去するお話になるので寂しさもありますが、そういう価値観にすごく共感するし、私も少しですが田舎に住んでいたので多少アドバイスできることがあります。暮らしを一緒に作っていける仲間が増えたな、と感じることが一番嬉しいです。

「エリアのリノベーション」を目指して。

殿塚さんと仲間の皆さん

――なぜ古民家や空き家に注目されたんですか?

単純に古い建物が好きだというのもありますが、不動産業を始めるころから山や畑を切り開いて新しく建物を建てるのが嫌だと思っていました。

まだまだ使えるものがあるのに新しく建てるなんて単純にもったいないと思っていて。不動産に携わると決めたときから、今ある物件を活かしていきたいと考えていましたね。

新卒のときに入社した会社でも、中古の物件をリノベーションして売る仕事をしていました。その後、房総にある古民家カフェで居候の時期を経て、前職では地元に戻ってきてまちづくりの会社で古民家を活用した不動産業に立ち上げから携わっていました。今までやってきたことをすべて発揮して、今のomusubi不動産があります。

――お客様は中古物件や古民家、DIY希望の人が多いんですか?

「DIYや古民家に興味がある」人も多いですが、「実現したいこと、やりたいことがある」という人が圧倒的に多いですね。
なるべく自由に物件を使いたい、何かを始める時は安い方がいい、だから古民家や空き家が良い。「自分の条件に合っているから」という人が多いと思います。

またomusubi不動産の特徴として「シェアアトリエの運営」があります。例えば市川では空きビル1棟をシェアアトリエとして運営しています。
そのビルには様々なクリエイターが入居されていて、それぞれのスキルを持ちあってビル全体を使ったイベントを行っています。

「はいリノベ物件です、はい古民家です、契約して終わり」ではなく、入居してから一緒に出来事を作っていくことで、人との繋がりや新しい何かが生まれています。
そういうことに興味がある人が多く、DIYをするのは結果的に「改装しちゃえ!」という感じかもしれません。

――なるほど、そうして「自給自足」に繋がっていくんですね。

まずは「自分ができることをきちんとする」。そこからさらに「おたがいさまの関係」を作っていきたいです。基本自分ができることは自分でやりましょう。得意技はおたがいに交換しましょう。「絵が描けるよ」「お米が作れるよ」「WEBがつくれるよ」、ではそれを交換しよう!それを顔が見える人とできる。これが私たちが目指す「おたがいさまの暮らし」です。顔が見える範囲で経済活動をしてみようということなのかもしれません。

不動産会社をやっていると本当に色々な人に出会えます。そうすると、「AさんとBさんが出会えばもっとこういうことが起きるかも!」という気づきも多くて。0から1を作る仕事ではないけれど、1+1を2や3にしていくことができます。

――今後のomusubi不動産について教えてください。

エリアのリノベーションをしていきたいと思っています。まずはこのさくら通り。私たちの他にも周りに入居してくれたおかげで、「なんかちょっとこの通り、良いよね」と言ってもらえるようになりました。

私たちだけでは無理だったけれど、隣に設計事務所やアンティークショップがあるおかげで、新しいカフェのプロジェクトがスタートし、通りを変えられるようになってきました。
これがさらに八柱という地域に拡大していって、「omusubi不動産がある地域はおもしろいらしいぞ」と言ってもらえるようになったら嬉しいです。

みんなのスキルを自給してもらいながら、おたがいさまに生きていけたら。
今後は地域同士の繋がりや移動が起きたり、点と点が線で繋がっていけば良いなと思います。

夜会

omusubi不動産の前を通る人の多くが殿塚さんと挨拶を交わされ、取材の時間だけでも、殿塚さんとさくら通りに住む人たちとの繋がりが多く感じられました。「自給自足」で「おたがいさま」。無縁社会と言われる現代で、実はとても“人らしい”暮らしなのかもしれません。

この記事を書いた人
編集部 池田

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