【気象予報士座談会】テレビ局の気象予報士が語る「天気予報」の舞台裏とホンネ座談会! 個性が光る“予報ではない解説”に注目
- 2023年04月17日公開
テレビ局のニュース番組や情報番組において、欠かすことのできない天気予報コーナー。
天候や気温、降水確率といったマークや数値だけではなく、最適な服装や過ごしやすさ、季節ごとの草花の様子などを交えた旬の情報も視聴者にとって楽しみの一つです。
今回は、在名4局で活躍する気象予報士の福島 智之(東海テレビ)、石橋 武宜(中京テレビ)、沢 朋宏(CBCテレビ)、上野 高明(テレビ愛知)が一堂に会し、座談会を実施。
天気予報の裏側や気象予報士として伝えたい思いについて熱く、楽しく語り合いました。
■気象予報士
福島 智之(東海テレビ)
アナウンサーとしてニュース番組のメインキャスターを務めた後、2021年に気象予報士の資格を取得。毎週月〜金曜、夕方15:43〜東海テレビで放送中の『NEWS ONE』にて『ふく天』を担当。
石橋 武宜(中京テレビ)
2004年、気象予報士の資格を取得し、現在は中京テレビ専属の気象キャスターとして活躍。毎週月~金曜、夕方15:48~中京テレビで放送中の番組『キャッチ!』にて「ビシバシ天気予報」を担当。
沢 朋宏(CBCテレビ)
1996年にアナウンサーとしてCBCに入社以来、テレビ・ラジオの各番組に出演する中で、2004年に気象予報士の資格を取得。2014年からCBCテレビで放送中の番組『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』に気象予報士として出演中。
上野 高明(テレビ愛知)
2017年、気象予報士の資格を取得し、2018年よりウェザーマップに所属。毎週月~金曜、夕方17:00~テレビ愛知で放送中の番組『5時スタ』にて「おかわり天気予報」を担当。
■司会進行
望月 杏夏アナウンサー(中京テレビ)
『ぐっと』や『キャッチ!』、『オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。』など中京テレビで放送中の番組でナレーションやMC、キャスターとして活躍。
望月アナ:まずは中京テレビの石橋さんから、天気予報の仕組みについて解説をお願いします。
石橋:大前提として、天気予報の業務をするためには気象庁による認可を受ける必要があります。
そのため多くのテレビ局では、認可を受けた民間の気象会社と契約し、その気象会社が発表した予報を放送しています。つまり我々お天気キャスターの仕事は、その予報をわかりやすく説明すること。予報ではなく解説業務という感覚です。
望月アナ:お天気キャスターのみなさんが予報をしていると思っている視聴者も多いかと思いますが、実際はそうではないんですね?
石橋:僕らは気象予報士の資格をもっているので予報をすること自体はできますが、その予報をテレビで放送する認可を受けていません。ただ民間の気象会社も、僕らのような個人の気象予報士も、見ている天気図は同じ。なので、認可が下りている民間の気象会社が発表する予報を、上手にわかりやすく説明するというのが僕らお天気キャスターの役目ですね。
望月アナ:なるほど。契約している民間の気象会社は、各局で違うのでしょうか?
福島:東海テレビはウェザーニューズです。
石橋:中京テレビもウェザーニューズなので、表示されるお天気マーク自体は、東海テレビさんと同じですね。
上野:テレビ愛知の場合、局としてはウェザーニューズと契約しているのですが、実は私自身はウェザーマップ所属なんです。
沢:それは、ものすごいジレンマですね(笑)。
上野:そうなんです(笑)。私は『5時スタ』のみの出演契約となっていて、愛知県内の天気に特化して細かく予報を伝えたいというテレビ愛知からの要望を受けています。なので、テレビ愛知で流れる大半の予報はウェザーニューズが軸になりますが、『5時スタ』だけはウェザーマップの予報を使っています。
石橋:1局につき、気象会社は1社だけという決まりはないんですよね。CBCテレビさんは?
沢:CBCテレビは日本気象協会とウェザーニューズ、ウェザーマップ、気象庁も加えて4つの予報を使っています。
福島:4つも!さすがですね。“ゴゴスマ”(笑)!
一同:(笑)。
石橋:各所の予報が違う時はどうされているんですか?
沢:基本的には気象庁の発表をもとにします。悩ましいのが、初夏などの季節の変わり目の時期。多くの気象会社が「29℃」と発表する中、ある一つの気象会社だけが「30℃」と予報を出すこともあるわけです。この1℃の違いで「初・真夏日」と伝えることもできるので、非常にもどかしい気持ちになります(笑)。
桜の開花予想の時もそうですが、各所の読みに差がある場合は、敢えて各所の予報を並べて傾向として伝えるという手法をとることもあります。
望月アナ:みなさんご自身も予報はできるとおっしゃっていましたが、気象会社の予報を見て、自分の予想と違うな…と思った時は、どのように対応しているんですか?
石橋:僕は結構、そういった場面が多いですね。ウェザーニューズに対して、意見を言うこともしばしば。放送中は基本的にウェザーニューズが発表した予報を伝えていますが、「僕はこうだと思うけどな」といったように言葉で自分の見解を添えることは…みなさんありますよね(笑)?
沢:…毎日ありますね(笑)。あくまで発表されている予報をしっかりと伝えつつ、その予報に対する自分の見解を伝えるという形をとるようにしています。
望月アナ:お天気キャスターの役目は解説業務だとおっしゃっていましたが、視聴者によりわかりやすく伝えるためにどのような工夫をしていますか?
上野:例えば気象会社から届く予報が曇りマークだとしても、それが雨寄りの曇りなのか、晴れ寄りの曇りなのかという見解を添えるようにしています。
また、僕の場合は「おかわり天気予報」というコーナータイトルにちなんで、季節にちなんだ食べ物ネタと天気を関連づけて伝えるという工夫もしています!
福島:おいしいものを食べられていいな~と思いながら、いつも見ています(笑)。この間も、お団子を食べながら桜の中継をしていましたよね!
上野:はい!視聴者の方に少しでも興味をもってもらえるように、天気に関連したクイズを毎日出しているので、ネタ探しに日々奮闘しています。
沢:伝え方の工夫という点で言えば、先日のように、平年の値より気温は高いのに、1週間の流れで捉えると急に気温が下がった時などは表現に迷いますよね。みなさん、どうされていますか?
石橋:僕は結構寒いだろうと思ったので「寒の戻り」と伝えましたね。
福島:私も、風もあって寒いと感じたので「寒の戻り」として伝えました!
上野:僕もそうですね。北風が吹くということも付け加えて「寒くなります」と伝えました。
石橋:自分がどう伝えたいかによって、使うグラフや図、言葉の選び方も変わりますよね。
「寒い」と言っているのに平年と比較したグラフを出すと「あれ、気温高いんだ」と思われてしまう。だから先日のようなケースで「寒い」と伝えたい時は、平年比ではなく先週からの気温の推移を使うなど、がくんと下がることがわかるグラフを出すといった見せ方の工夫は心がけています。
沢:『ゴゴスマ』の場合は、見出しのフレーズを作る時に使う三段論法というのがあるんですよ。
ストレートに「寒の戻り」と断定的に書くか、「寒の戻りか」とニュアンスを弱めるか、「寒の戻り?」と書くか(笑)。言い回しを調整しながら最適な表現を探っています。
石橋:びっくりマークやはてなマークは最強ですよね!
望月アナ:みなさんは気象予報士として誰かに褒められたことや、感謝されたことはありますか?
上野:晴れ時々曇りの予報が出ている夏の日に「この時間帯、夕立があるかもしれません」と伝えた日のこと。番組スタッフの親族の方から「本当に降りました!」って感謝された時はすごく嬉しかったですね。
石橋:正直なことを言っていいですか?僕は褒められたことないですよ(笑)。
福島:ないですよね。ないない(笑)!
石橋:当たって当然みたいな雰囲気ありませんか?褒められて伸びるタイプなのに誰も褒めてくれないので、逆に自分から「今日の予報どうだった?当たったよね?」と聞きに行きます(笑)。
一同:(笑)。
沢:当たった時は「当たり前」としか思ってもらえないですよね。
だから私自身は、予報自体が当たるか当たらないかではなく「季節に合わせたあの話、すごくほっこりしました」とか、話題の取り上げ方などに感想をいただくとすごく誇らしくなります。
福島:視聴者の方からお礼のメールをいただくと、ものすごく嬉しいですよね。
望月アナ:反対に、予報が外れてしまった時は、どのような心境なのでしょうか?
福島:「どうしてあんなこと言っちゃったんだろう」「もう少し違う伝え方がなかったのだろうか」という反省ばかり…。
予報を外した時は、できる限り今後に活かすためのチャンスだと捉え、経験値として蓄積していこうと自分自身に言い聞かせています。
沢:経験によっていろいろな可能性を伝えられたり、伝え方を変えたり、そういうことができるからこそ、気象予報士の存在意義があると思います。
コンピューターが弾き出した結果をそのまま伝えるだけではなく、人間がこれまでの経験や感覚、勘で軌道修正したり情報を付加したりする。そこに、天気予報に人間が介在する意義があるのではないでしょうか。もちろん外れた時は悩むこともありますが、あまり気にしすぎないようにしています。
石橋:おっしゃる通りですね。僕の場合は、予報が外れた時はTwitterを活用することが多いです。
出演後に雨雲レーダーを見ていて、予想外に早く雨雲が近づいてきてしまった時などが典型的な例です。「まだ大丈夫」って伝えたのに、今にも雨が降りそうだと思ったら「ごめんなさい、洗濯物しまってください」って謝罪を込めて即座に発信します!
福島:私は予報を外した時、反省の意味を込めて傘をささずに会社まで行ったこともあります。昨日、自分で降らないって言ったのに、傘をさすわけにいかないかなって(苦笑)。
石橋:すごい!僕なんか雨宿りしながら「気象予報士が雨宿りするなんて恥ずかしい!どうしよう」って思ったことはありますけど。
沢:そうそう。だから私は、小さめの折り畳み傘を常に鞄に忍ばせています。
上野:僕、鞄のサイドポケットに堂々と折り畳み傘を入れていますよ(笑)。
石橋:福島さんのような謙虚な気持ち、忘れてしまっていました。
沢:予報を外してしまった時のエピソードで思い出すのは、ウェザーマップの森田正光さんに教えていただいた話です。
例えば土曜日に雨が降ると伝えていたのに日曜日に降った場合。「予報が外れた」と言うのではなく「時間や場所が“ずれた”」と捉えれば良いのだと教えていただき、少し気が楽になりました。
石橋:その話、僕も聞いたことがあります!「予報外れる(よほうはずれる)」という言葉は「、(読点)」を打つだけで「予報は、ずれる(よほうは、ずれる)」になるって。
福島:なるほど!勉強になります。良い話を聞きました。
望月アナ:みなさん、お互いの天気予報を見ることもあるかと思います。他局の天気予報は、どのような点に着目して見ていますか?
上野:僕は、石橋さんがいつもオリジナルのグラフなど、いろいろな小道具を使ったりイラストを駆使したりして伝えている様子を研究しています。画面の作り方など、すごく参考にさせていただいています。
沢:私がチェックするのは、各局がどのネタから入るかですね。予報から入るのか気温差や気圧配置から取り上げるのか。頭に持ってくる情報こそが、その日の予報で一番重視している着眼点なんだろうなと思いながら、比較しています。
他局のオンエアを見て、「1年後、自分のネタにしよう」と取り入れることもあります(笑)!
石橋:僕は出演する番組が終わった後に、夕方の情報番組を見ることが多いので、ある意味答え合わせというニュアンスが近いかもしれません。例えば桜の開花予報など、自分の伝え方で良かったのかなって振り返ることが多いですね。
常にわかりやすく天気を解説しようと心がけていますが、自分一人では孤独なんですよ。周りにほかの気象予報士や相談できる相手がいれば…と悩んだらそっとテレビをつけて、他局の天気予報を参考に見ることはありますよね…?正直(笑)。
沢:はい(笑)。もちろん自分なりの見解やアイデアをプラスするので、パクリではなくオマージュと言っています(笑)。
ちなみに、みなさんは朝や夜の番組もチェックしていますか?
石橋:僕は見ますね。
上野:朝起きたら、まず天気予報をチェックします。
福島:天気予報の時間って大体決まっているので、チャンネルをまわして各局チェックしますね。桜の時期などは、みなさんがどのタイミングで中継をするのかという点もすごく気になるところ。他局が中継している様子を見て「あ、もうそんなに開いているんだ」と気になったり、「先を越されてしまった」と悔やんだり…。
季節ごとに取り上げるネタやタイミングなど、翌年の参考にもさせてもらっています。
望月アナ:プライベートでも常に天気や季節にまつわるネタ探しや情報収集などをしているのでしょうか?
福島:確かに季節に合わせたネタ探しって、大変ですよね。みなさんどうされているのか、気になります。
上野:私はコーナー内でお天気クイズを出しているので、その出題用のネタ探しに日々追われている感じです。プライベートの時間も常に一眼レフを持ち歩いて、気になるシーンがあれば撮影しています。
石橋:局によっては、スタッフがたくさんいて協力体制が整っているケースもあるようですが、僕も全部一人で探しています。
福島:私の場合は女性スタッフがもう一人いるので、一緒に探しています。女性ならではの視点など、自分では思いつかないネタを提供してくれることも多く、すごく助かっています。
私はまだ気象予報士として1年目なので、ネタ探しのために移動時には自転車を愛用し、風や花の様子など気象の変化を感じ取るように心がけていますね。
沢:私は愛知県三河地方の緑に囲まれた地域で生まれ、子どもの頃から四季の移ろいを肌で感じられる環境で育ちました。でも、名古屋のような都市にいると、季節の移り変わりに鈍感になりがち…。
自分が感じている温度感や湿度など、気象の感覚が実際の数値とずれていないかということは毎日確認していますね。
石橋:僕も似ています。同じ20℃でも人によって肌寒いと感じたり、温かいと感じたりという違いがある。だから、自分の感覚がずれていないかを必ず周りのスタッフに聞いたり、Twitterを活用したりして確認しています。
望月アナ:最後に、天気予報をより楽しく有効に活用していただくために、視聴者の方々にメッセージを一言ずつお願いします!
上野:お天気のマークを見るだけではなく、気象予報士がどのようなことを話しているかにも注目していただきたいですね。そしていろいろな局の予報を比べて、気象予報士ごとの解説の違いや特色を見つけるのも面白いと思います。
石橋:天気に興味を持っていただきたいというのが一番の望み。だから上野さんがおっしゃるように、どの局でもどの気象予報士でもいいから、毎日天気予報を見てほしいです。
天気予報は、災害から身を守るというのが最終目標だと思っているので、自分の目で天気を見て、天気について考えることが大切。大雨や台風の日だけではなく、毎日見続けていればレーダーを見ることにも慣れてくるはずです。
沢:天気予報の見方とは少し違うかもしれませんが、ぜひ1日1回は空を見上げ、風を感じてみてください。
天気に関心を抱くことは環境問題に対して常に意識を持ち続けることにつながり、つまりは子どもたちの世代に残すべき環境について思いを寄せるきっかけになると思います。
福島:今はスマートフォンを見れば、いつでもどこでも天気予報を確認できる便利な時代。しかし我々気象予報士は、マークだけではわからないことを解説したり、体感や季節の情報をプラスしたりと、いわば“天気の翻訳者”のような役割を担っています。
スマートフォンで確認できる単なる数値だけではなく、ぜひテレビをつけて、天気予報に耳だけでも傾けていただけたら嬉しい。
そして「四季のある日本って素敵だな」と、今よりもっと日本を好きになってもらえたら本望です。
Locipo Press(ロキポプレス)は、名古屋に本社を置く民間放送局4社〈東海テレビ放送・中京テレビ放送・CBCテレビ・テレビ愛知〉の動画情報配信サービスLocipoを、手軽に文章で読むことができるメディアです。
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