痴漢から身を守るための「反撃」はどこまでOK?正当防衛の境界を弁護士が解説

  • 2026年10月25日公開

「あっ、友達からLINEだ♪」何気なく開いた女性→【まさかの落とし穴】にゾッ…!専門家が警告「実はそのメッセージ…」

こんにちは、ヨムーノ編集部です。

もしも、満員電車で突然、痴漢被害に遭ったら……。恐怖を感じる一方で、相手への怒りから「やり返したい!」と思うこともあるかもしれません。

では、相手の手を払いのけたり、腕をつかんだりするのは問題ないのでしょうか。また、安全ピンなどで刺した場合は、正当防衛として認められるのでしょうか。

今回は、そんな「もしも」のケースをもとに、株式会社BestOneの太田垣弁護士に、痴漢被害に遭った際の正当防衛や、身を守るためにできることについて教えていただきました。

※個別の事情によって判断が異なる場合があるため、実際のトラブルについては弁護士などの専門家にご相談ください。

【もしも、こんなことが起きたら?】「殴ってやりたい!」満員電車で痴漢被害に遭った女性

※以下は、法律上の疑問を考えるために設定した架空のケースです。

通勤ラッシュの満員電車に乗っていたIさん。突然、腰のあたりに何かが触れる感覚がありました。

最初は「バッグかな?」と思って、少し体の向きを変えてみたそう。

ところが、しばらくするとまた同じところに触れる感覚が。どうやら誰かの手のようです。

「やめてください!」

思いきって振り向くと、後ろにいた男性がパッと手を引き、「俺じゃない」とひと言。

その態度に、Iさんは怒りがこみ上げます。

「その手、思いきり払いのけてやればよかった」 「いっそ殴ってやりたい」

以前SNSで見かけた「痴漢されたら安全ピンで刺す」という話まで頭をよぎりました。

結局、Iさんは反撃せず、次の駅で電車を降りました。

痴漢から身を守るためとはいえ、どこまでなら「正当防衛」として認められるのか、太田垣弁護士に伺いました。

教えてくれたのは…株式会社BestOne 太田垣弁護士

  • 株式会社BestOne 弁護士・税理士 太田垣佳樹(おおたがき よしき)さん

東京大学法学部卒業。首都大学東京(現・東京都立大学)法科大学院修了。

2013年司法試験合格、2014年弁護士登録。Arden法律事務所の代表弁護士として、相続・不動産・企業法務を中心に幅広い案件を取り扱う。

2022年より東京都立大学法科大学院非常勤講師を務めるほか、2025年に税理士登録。

株式会社BestOne

結論:痴漢の手を払いのける行為は正当防衛になり得る!安全ピンで刺す行為は認められない場合も

手を払いのける、腕をつかむといった行為は、正当防衛として認められる可能性が高い行為です。しかし、安全ピンなどで刺す行為は、状況によって評価が分かれます。

まずは、正当防衛が成立するための要件から見ていきましょう。

正当防衛として認められるための3つの要件

正当防衛(刑法36条1項)が成立するには、次の3つが必要です。

①急迫不正の侵害があること(まさに今、違法な行為をされていること)

②自分や他人の権利を守るための行為であること

③やむを得ずにした行為といえること(防衛手段として相当であること)

痴漢は、身体と性的自由に対する明らかに違法な侵害ですので、行為が続いている間は①と②は満たされます。

実際に問題になるのは、ほぼ常に③「防衛手段として相当だったか」という点です。

やりすぎると「過剰防衛」になることも

防衛の程度を超えた場合は、過剰防衛となります(刑法36条2項)。

その場合、犯罪自体は成立しますが、情状によって刑が減軽または免除されることがあります。

民事上、正当防衛が認められれば、賠償責任は負いません(民法720条1項)。

行為ごとに見る「どこまでなら正当防衛?」

では、実際に痴漢被害に遭ったとき、どのような行為まで正当防衛として認められるのでしょうか。

「手を払いのける」「腕をつかむ」「安全ピンなどで刺す」の3つについて、太田垣弁護士に伺いました。

手を払いのけるのは?

太田垣弁護士「相当性が認められる典型例です」

手を払いのける行為は、受けている侵害を直接排除する行為であり、相当性が認められる典型例です。

相手の腕をつかむのは?

太田垣弁護士「必要な範囲で取り押さえ、駅員を通じて警察に引き渡すことは認められています」

腕をつかむ行為は、侵害を排除するだけでなく、犯人を確保する行為でもあります。

現行犯人は誰でも逮捕することができます(刑事訴訟法213条)。必要な範囲の力で取り押さえ、駅員を通じてすぐに警察官へ引き渡してください(同法214条)。

安全ピンなどで刺すのは?

太田垣弁護士「状況によって評価が分かれます」

安全ピンなどで刺す行為については、一律に正当防衛になる・ならないとはいえず、次のような事情をもとに総合的に判断されます。

① 受けていた被害の程度
衣服の上からだったのか、執拗な行為だったのか。

② ほかに取れる手段があったか
声を上げる、手を払う、車両を移るなど、より穏当な方法を取れる状況だったか。

③ 相手に生じさせた傷の程度
刺したことで、相手にどの程度のけがを負わせたか。

正当防衛が認められるのはどんな場合?

身動きが取れず、声を上げても止まらず、被害が続いていたという状況であれば、正当防衛が認められる余地があります。

一方、より穏当な手段を取れる状況で、いきなり刺した場合には、相当性を欠くと判断される可能性があります。

「痴漢されたから何をしてもOK」ではない!気をつけたい2つのこと

痴漢被害に遭ったからといって、相手に対してどんな行為をしても許されるわけではありません。

とっさに身を守ろうとするときにも、特に気をつけたい2つのポイントがあります。

①相手が手を引いた“あと”の行為は正当防衛にならない

太田垣弁護士「侵害が終わった後の行為は、正当防衛にはなりません」

相手が手を引いた後に殴る、逃げようとする相手を追いかけて傷つけるといった行為は、防衛ではなく報復と評価され、傷害罪などが成立し得ます。

②満員電車では「人違い」にも注意

太田垣弁護士「無関係の人を傷つければ、こちらが加害者になることもあります」

満員電車では、誰の手であったかを取り違えやすい状況にあります。

無関係の方を傷つけてしまえば、正当防衛は成立せず、こちらが加害者として責任を問われる展開になり得ます。

相手をつかむのであれば、手首をつかんだまま、その手が誰のものなのかを周囲から確認できる形で確保するのが確実です。

では実際、どう身を守る?弁護士がすすめる3つの対応

被害を受けた方がとっさに反撃して相手に軽いけがをさせたという場合に、実際に起訴されることは多くありません。

とはいえ、相手が痴漢を否認すれば、双方が捜査の対象になるという事態も起こり得ます。

その意味でも、身を守る行為は、次の順序で考えていただくのが現実的です。

①声を出す・防犯ブザーを鳴らす

周囲の助力を得られるうえ、目撃者を確保することにもつながります。

②相手の手をつかみ「この人です」と周囲に伝える

相手の手をつかんで離さず、「この人です」と周囲に伝えます。

③次の駅で駅員に引き渡す

そのまま次の駅で駅員に知らせ、警察に引き渡してもらいます。

「安全ピンで刺す」はおすすめできない

安全ピンを持ち歩くことをすすめる情報を見かけますが、相当性の判断で不利に働く可能性と、人違いのリスクの両面から、おすすめできる方法ではありません。

痴漢被害に遭ったら、まずは身を守ることを優先して

痴漢被害に遭った際、相手の手を払いのけたり、腕をつかんだりする行為は、正当防衛として認められる可能性が高いとのこと。

一方で、相手を安全ピンなどで刺す行為については、そのときの状況や被害の程度、ほかの手段を取れたかどうかなどによって判断が分かれます。

また、相手がすでに手を引いているのに殴るなど、「防衛」ではなく「報復」とみなされる行為には注意が必要です。

被害に遭ったときは、まず声を上げたり防犯ブザーを鳴らしたりして周囲に助けを求め、可能であれば相手の手を確保して駅員に引き渡すなど、自分の身を守りながら周囲の助力を得ることが大切です。

※一部AI画像を使用しています。

この記事を書いた人
ヨムーノ 編集部

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