「大人なんだから子どもに譲るのが普通でしょ?」新幹線の指定席を狙う強引な母親→顔色を変えて去ったワケ
- 2026年10月03日公開
こんにちは、ヨムーノ編集部です。 実体験をもとにしたストーリーをお届けします。
昔から、頼まれごとを断るのが苦手な私。職場では面倒な仕事を引き受け、飲み会の幹事も毎回私。「いいよ」と言ったあとで、ひとりモヤモヤするのがお決まりのパターンです。
そんな私が、新幹線の車内で「お断りします」と口にした日のことをお話しします。
1か月前から押さえた、富士山が見える“窓際の席”
年に一度、自分へのご褒美に一人旅をしています。今年の行き先は京都。そして私には、旅先と同じくらい楽しみにしていることがありました。
東海道新幹線の下りで、富士山を眺めることです。
東京から西へ向かう新幹線では、進行方向右側の窓際の席から富士山が見えます。新富士駅のあたりで、街並みの向こうにどーんと現れるあの姿。子どもの頃に家族旅行で見て以来、私にとって新幹線の旅は「富士山に会いに行く時間」なのです。
だから今回も、1か月前の発売日、朝10時ぴったりに予約して窓際の席を確保しました。出発前日に確認した天気予報は晴れ。前の晩はなかなか寝つけないほど、わくわくしていました。
当日、東京駅で駅弁とお茶を買い込み、自分の席に腰を下ろしたときの幸せといったら。隣の通路側の席は空いています。途中から誰か乗ってくるかもしれませんが、しばらくはのびのび過ごせそうです。
「子どもが見たいって言ってるんだから、譲ってくれるわよね?」

品川、新横浜と過ぎ、車内が少し落ち着いた頃でした。
通路から、小学校低学年くらいの男の子を連れた女性がやってきて、私の横で足を止めました。
「すみませーん。この子が富士山見たいって言うんですよ。席、譲ってもらえません?」
一瞬、何を言われたのかわかりませんでした。女性は空いている隣の席を指さして、「私はこっちの席に座るから、お姉さんは別の席に行ってくれないかしら」とにっこり。
いつもの私なら、ここで「あ、どうぞ」と腰を浮かせていたと思います。実際、体が勝手に動きかけました。でも、膝の上の駅弁と、窓の外の青空が目に入った瞬間、胸の奥で小さな声がしたのです。
――この席は、私が1か月前から楽しみにしてきた席だ。
「あの……すみません。私も富士山を見るために、この席を取ったので……」
声が震えました。女性の笑顔がすっと消えます。
「え? 大人なんだから、子どもに譲るのが普通じゃない? 一回くらい見なくたって困らないでしょ」
「子どもの思い出なんだから」「ケチくさい」。たたみかけるような言葉に、周りの視線が集まるのを感じました。頭が真っ白になり、やっぱり譲った方がいいのかな……と弱気になりかけた、そのときです。
車掌さんのひと言で、車内の空気が一変
「お客様、どうかされましたか?」
ちょうど車内を巡回していた車掌さんが、足を止めてくれました。女性はすかさず「この人が席を代わってくれないんです」と訴えます。
車掌さんは私の切符を確認すると、女性の方に向き直りました。
「恐れ入りますが、お客様の乗車券と特急券を拝見できますか?」
女性がしぶしぶ差し出した切符を見て、車掌さんは穏やかに、でもはっきりと言いました。
「こちらは自由席の特急券ですね。このお席は、この方がご予約されています」
女性は「でも、前の席も空いてるじゃない。この人がそっちに移れば済む話でしょ」と、前の席を指さしました。
「お隣も、前のお席も、名古屋からご予約が入っています。空いているように見えても、自由にお使いいただける席ではありません」
その言葉を聞いて、ようやく顔を上げられました。
「私も富士山を見るのを楽しみにしてきました。席を譲ることは、お断りします」
女性は一瞬黙り、「なによ、ちょっと聞いただけじゃない」と言い捨て、男の子の手を引いて去っていきました。
車両に静けさが戻ると、通路を挟んだ席の年配の女性が、そっと声をかけてくれました。
「よく言えたわね。あなた、何も悪くないわよ」
その言葉に、張りつめていた肩の力がふっと抜けました。
それからしばらくして、窓の外に富士山が現れました。青空を背に、裾野まできれいに広がるその姿。何度も見てきたはずなのに、その日の富士山はいつもより大きく見えました。
断ることは、意地悪なことじゃない。自分が大切にしてきたものを、自分で守っただけ。あの日の富士山は、ほんの少し勇気を出した私へのご褒美だったのだと思います。
※AI生成画像を使用しています。 ※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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