【田舎暮らし連載】オダジーの、ふらの暮らし応援記 第2回:先輩フラニストの”ナマの声”(2)「エゾアムプリン製造所」加藤公之さん・かおりさんご夫婦
- 2021年03月22日更新
「エゾアムプリン製造所」は、予約待ちが絶えない人気のプリン屋さん。東京からやって来たリーダー(加藤公之さん)とアムちゃん(かおりさん)が、富良野市街地から離れた「平沢」という地域に、まるで絵本に出てきそうな小屋を建て、直径20㎝の大きなプリンを1日18個限定で製造・販売しています。
そんなエゾアムプリン製造所のホームページは、素朴な手書きの文字とイラストで、とてもほのぼのした雰囲気。文字とイラストと写真で、プリンの特徴や材料のこと、プリン小屋のこと、注文の方法、リーダー・アムちゃんとプリン小屋周辺の日常のことなどを知ることができます。直接お店を訪れられなくても、エゾアムプリン製造所の世界観を体験することができるので、ぜひご覧になってみてください。
エゾアムプリン製造所は、謎だらけ
なぜ、市街地から離れた平沢(たいらざわ)にあるのか。なぜ、1日18個限定なのか。なぜ、大きいプリンなのか。
平沢は富良野市街地からゆうに30㎞は離れている小さな集落です。いくらインターネットが普及してきたとはいえ、富良野市街地近くの方が商売的には有利でしょう。また、大きいプリン1種類に絞ってもし支持されなかったら、まったく売れなかったら…。逆に評判になったら、18個だけではすぐ品切れになってしまいます。
そんな謎に包まれていたエゾアムプリン製造所ですが、私には富良野のイメージそのままに生きているように見えました。大自然のなかで自然の恵みを享受しながら、富良野の良さを活かした自分たちの生業を、無理せず作り上げているからです。私の勝手な願いですが、移住希望者の方がエゾアムプリン製造所のように、それぞれの富良野らしい生業を見つけてくれたら嬉しいと思っています。
リーダーとアムちゃんの東京での暮らし
――ご出身はどちらですか?
アム:生まれたのは大阪です。赤ちゃんの時に東京に来て、そこから何回も引っ越しています。仙台、横浜、そしてまた東京に戻って来て。なので明確な出身地はありません。
――エゾアムプリン製造所を始めるまで、お仕事は何をされていたのですか?
アム:美容学校を出て美容師を3年やり、27歳ぐらいから飲食の仕事をしていました。
リーダー:専門学校を出て、デザインの仕事をやっていました。その後、国分寺でプリン屋さんを2年間営みました。自宅兼厨房でプリンを作り、ガレージのような車を停められる場所を借りて軽のワゴン車(※)で販売していました。曜日によって国立や吉祥寺など、色々なところに行きました。私はデザインの仕事をしていましたが、その仕事に疑問を持ちはじめ、違う仕事をしたいという思いがありました。もともと彼女(アムちゃん)が飲食店で働いていたこともあり、住んでいた借家を改装して飲食店をやろうと計画を立てましたが、大家さんから許可が出ず、家で商品を作って自分たちが売りに行くスタイルを考えました。
――その時に販売していたのは、どのようなプリンですか?
リーダー:四角い和食の流し缶で焼いたプリンを、お豆腐のように切ってフードパックに入れて販売していました。その時はまだ通販はやっていませんでした。
アム:プリンは好きだから作っていたのですが、「売れる」という手応えはありました。飲食店に勤めていた時に出していたプリンも評判が良かったので、自信はありました。
(※)軽のワゴン車は現在も敷地内に。東京時代は直丸(ちょくまる)と呼んでいたそうです。直売車だから直丸。
リーダーとアムちゃん、富良野へ
――富良野市街地やスキー場がある北の峰、「北の国から」の麓郷など、たくさんの選択肢のなかからなぜ富良野、しかも平沢に決めたのですか?
リーダー:通販がメインになることは最初から分かっていたので、場所は自然が濃い所が良いと思っていました。一応、車でキャンプをしながら道東の方を見てまわり、候補地探しはしました。結果、やはり富良野の辺りが良いなと。ちょうど麓郷のペンションに泊まりながら探している時、空き家があると教えてもらいました。最初は仮でも良いから住んでみて、また良いところがあったら移ろうと、とりあえずの気持ちで借りました。そうしたら人も土地も大当たり。丘の上に廃屋を解体した後の基礎もあったし、市の除雪車も入る。運が良かったと思います。
――直径20㎝、高さ6㎝の特大な陶製の器でプリンを販売しようというアイデアは最初から決めていたのですか?
アム:通販の場合に、どういう形が良いか考えました。これでやりたいと思ってデザインし、三重県の焼物屋さんに辿り着きました。
リーダー:まず、素焼風にしたかったというのがありました。素焼風ですが、中に釉薬(ゆうやく)が塗られています。素焼は仮焼きなので液が染み込んでプリンには使えません。素焼風に見えて、本焼きの土を使えるという条件のところを探しました。
――「1日18個限定」はインパクトがありますよね。
リーダー:もともと自分たちで手作りすることを考えると1日18個しかできなかったので、1日18個限定でスタートしました。今は予約の状況次第で24個まで焼くことができます。お客様をお待たせするのも良くないので、できる範囲で増やそうと、オーブンを1台増やし2台にしました。予約の少ない時は12個しか焼かない時もあるし、多い時は24個になります。
――「1日18個限定」というのはとても貴重品のように思えます。
リーダー:朝から晩まで働いて、たまたま18個しか焼けなかったという、偶然です。仮にたくさん売れるからといって夜遅くまで寝ずに働けば数は増やせるかもしれませんが、今のままでもここでは十分暮らしていけますし、お金儲けどうのということでやっているわけではないので。
――エゾアムプリン製造所が”商売”として成功した秘訣は何だと考えますか?純粋に商売だけを考えたら、もっと適した場所があるように思います。
リーダー:今やっているやり方や暮らし方が良いと思ってやっています。そうじゃないと大変じゃないですか。良い場所ではなく、暮らしいたい場所を優先したらここでした。
リーダーとアムちゃんとプリン小屋
エゾアムプリン製造所をプリンとともに特徴づけているのは、“みのむし”をイメージしたという手作りのプリン小屋です。
――次に、「プリン小屋」についてお聞かせください。
リーダー:父が大工だったので、1ヶ月程こちらに来てもらい3人で建てました。解体されていた母屋の基礎が残っていたのでそれを利用しました。
アム:お金がないから、ここにあった廃屋の廃材を使おうと思い立ちました。外壁の板などを剥がし使えるところを使おうと思ったら、腐っていて長いままでは使えませんでした。短い板を利用して見た目も可愛くなるように考えたら、今のような”みのむし”が良いと。途中からではなく、最初からそうしようとイメージしていました。
――富良野でエゾアムプリン製造所をオープンして、すぐに注文が殺到したそうですね。
アム:東京でやっていた時のお客さんが電話で注文してくれました。
リーダー:それは、彼女(アムちゃん)がブログで、プリン小屋を建てる様子をずっと書いていたからだと思います。おもしろいじゃないですか、いきなり何もないところで。アクセス数がものすごく増えました。プリンのことも、牛屋さんが決まった、卵屋さんが決まったなど、準備を全部細かく書いていたことで、皆さんが買いたいと思ってくれたようです。その後は毎年の誕生日や、クリスマス、父の日、母の日、お友だちへの贈り物、お中元など、常にリピートしてくれるお客さんも増えました。送料を入れると結構高くなるけれど、贈り物にはちょうど良い価格なのかもしれません。
――もしプリンが全然売れなかったらどうするつもりでしたか?
リーダー:最悪、売れなかったら何か別の仕事をするぐらいは思っていました。
アム:私は絶対にうまくいくと思っていたので何の不安もなく、早くやりたいという気持ちでいっぱいで、とても楽しみでした。もしこれでプリンが売れなくて失敗したら理由が分からない、これで売れないなんてことはありえないと思っていました。私が考える、こういうところで、こういうふうにして、こうやってプリンを作るという理想があって、それを形にしたら売れると、うまくいかないはずがないと思っていました。売れないわけがないと言うと少し偉そうですが、そうではなく、自分だったらこういう店がやりたくて、こういうふうにしたら買いたいと思うからです。
――お2人のように移住したい、開業したいという方へのアドバイスをお願いします。
リーダー:「私たちもやりたい」、「僕らも田舎で暮らして色々やり出しました」など、メールや手紙をよくいただきます。
アム:やりたいことがあるなら、やったらいいと思います。成功しないかも、なんて不安がある人はやらなくていい。成功するとしか思えないことをやればいいと思います。
お2人と話していて、オダジーは少し世代間ギャップを感じました。それは、商売に対する感覚のズレかもしれません。私も商売人の端くれとして30年以上やってきましたが、どうしても仕事優先で生活を犠牲にしがちです。エゾアムプリン製造所はどんなに忙しくても、週2日の休みを取っているそうです。1日は溜まった用事を済ませ、もう1日は釣りをするなど好きなことに使うそう。私が驚くとリーダーは、「僕らは子どもの頃から学校も週休2日制でしたから」と笑いました。
インタビューをしている時にも感じましたが、無理をせず、自然体で仕事も生活もバランスよく大切にしているのでしょう。私も頭ではそうした方が良いと分かっているものの、それができないまま今日まできてしまいました。
私は、エゾアムプリン製造所のやり方に新しい可能性や頼もしさを感じます。このような考えを持った若い人たちが富良野を気に入ってくれて、富良野で活躍してくれれば幸いです。
エゾアムプリン製造所
2006年オープン。無添加・無着色の「蒸し焼きプリン」を1日18個限定で製造・販売している。
〒076-0204 富良野市平沢3893-4
TEL:0167-27-2551
ホームページはこちら
スタッフ:リーダー(加藤公之さん/48才)、アムちゃん(かおりさん/41才)、坂川美穂さん(42才)
エゾアムプリン
地元酪農家の搾りたての牛乳や近所の養鶏場の純国産鶏が産んだ卵、道内産の生クリームとてんさい糖、さらに山の麓に湧いている水を使用。これらの原材料とカラメルソースを混ぜ合わせて、直径20㎝、高さ6㎝の特大な陶製の器に流し込み、オーブンで2時間じっくりと蒸し焼きにする。作業は機械ではなく、すべて手作業。器が大きいのでオーブンでは一度に6個しか焼くことができない。それを1日3回。
大きさ:1個1,000g(直径20㎝・高さ6㎝/大人約8食分)
金額:2,700円(税込/送料別)
注文:電話のみの受付。注文状況(混み具合)はホームページで確認できる。
【田舎暮らし連載】オダジーの、ふらの暮らし応援記シリーズ
第1回:富良野ってどんなところ?
(1)へそとスキーとワインのまち富良野
(2)美しすぎる!四季折々の富良野
(3)富良野の移住者とウマいもの
第2回:先輩フラニストの“ナマの声”
(1)バリアフリーの宿&カフェ「いつか富良野へ」増田直子オーナー
(2)「エゾアムプリン製造所」加藤公之さん・かおりさんご夫婦
第3回:オダジーが聞く!「富良野市の取り組み」
(1)ふらの市移住促進協議会・渡邊さん×「いつか富良野へ」オーナー・増田直子さん
宅地建物取引士であるオダジーは、富良野やその近辺で田舎暮らしをお考えの方に、居住用物件や店舗用物件をご紹介できます。オダジーおすすめ物件はこちら。
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